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時の彩り(つれづれ、草) 044

2008.10.01 小林康夫

☆ Fragilité ontologique (ブエノスアイレス午後1時)

初秋の透明な光を惜しむようにパリを出発して、途中、諸般の事情で思いもかけずアトランタに一泊。未曾有の金融危機に揺れ騒ぐ合衆国を飛び立って、辿り着いたのが、プラタナスの新芽が緑に煙る早春のブエノスアイレス。「南米のパリ」と言われるだけあって、わたしには違和感のないのが違和であるような街に着いた。

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(かつてタンゴが生まれた頃の街並みが残ると言われるサン・テルモ地区のドレーゴ広場)

  早朝に着いてホテルに入ると、午後の1時には、ブエノスアイレス大学のフランシスコ・ナイシュタットさんが登場。ちょうどそこにNYから着いたばかりの中島さんとともに、「Classica y Moderna」という奥に書店もある雰囲気のあるカフェでの食事に招かれた。

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(フランシスコ・ナイシュタット氏と)

  たぶんシンポジウムの準備などで忙しいはずなのに、時間をかけてわれわれと議論をしてくれて楽しかったが、なかでもアルゼンチンにとっての「哲学」の原型はなにか、みたいな質問をわたしがしたのに、即座にボルヘスの名がかえってきたのは、なるほどと。大学の「哲学科」にほんとうの「哲学」があるとはかぎらない。むしろ時代のほんとうの「哲学」は「哲学」と認知されていないところにあるのかもしれなくて、なにしろバリローチェのシンポジウムのテーマが「メタ哲学」でもあって、現代における「哲学」の可能性と不可能性について、ワインを飲みながら議論がはずむ。途中で、ナイシュタットさんが「Fragilité ontologique」(存在の脆弱さ)と言い出すと中島さんも、それこそ小林さんのテーマでしょう?とにやり。こういうふうに話が同調してくるところ、おもしろさはつきない。

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(フランス・アルゼンチン・センターにてパトリス・ヴェルムランさんと)

  翌日は、ナイシュタットさんが派遣してくれた二人の若い女性研究者の案内でブエノスアイレス大学のフランス・アルゼンチン・センターを訪問。そのリーダーがパリ第8大学から来ているパトリス・ヴェルムランさんで、きいてみたら、パリの国際哲学コレージュの創設にもかかわったという。わたしも多少関係があったよ、と名前を告げたら、なんだ知ってるよ、とそこから急に、人称代名詞が敬称の「vous」から親称の「tu」に代わった。廊下の掲示板には、今度UTCPで招くボベロさんの講演ポスターも張ってあり、なんだ、ずいぶんと似通った活動をしている、とお互いの活動を報告しあった次第。パリを媒介にして、東京とブエノスアイレスというまったく地球の反対側にあるふたつの都市が結ばれる感覚がおもしろい。

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(ジーノ・ゲルマニ社会科学研究所にて)

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