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中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第6回報告

2008.09.22 └セミナー4:ベシャラを読む, 西堤優, 脳科学と倫理

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション6の報告です.

Neural Mechanisms of Willpower

【本文要約】
  意志力は、ソマティック・マーカーの枠組みに基づけば、以下のような二つの神経システムの相互作用によって形成されるのである。それは、(1)一次的誘発因子をきっかけにしてソマティック状態を生じさせる「衝動的な(impulsive)」システムと、(2)二次的誘発因子をきっかけにしてソマティック状態を生じさせる「熟慮的(reflective)」システムである。

  これらのシステムの内部的なメカニズムは、扁桃体と前頭前・腹内側部が深く関わっている。扁桃体は、迅速な反応を要する情動的な状況に対して、どちらかといえば自動的なプロセスから生じる「低次の」情動的な反応に従事している。一次的誘発因子にさらされると、扁桃体を介して迅速かつ自動的かつ不可避的なソマティック状態が生起させられる。この状態が維持されるのはごく短時間だけだが、容易に習慣化される。他方、前頭前・腹内側皮質は、熟慮や意識と関係したどちらかといえば「高次の」プロセスから生じる「高次の」情動的な反応に従事している。扁桃体を介した当初の情動的な反応が終わると直ちに、知覚像や想起された心像といった二次的誘発因子をきっかけにして前頭前・腹内側皮質を介したソマティック状態が生起させられる。扁桃体を介した反応とは違って、前頭前・腹内側皮質の反応は熟慮的で、緩徐で、長時間持続する。こうして、前頭皮質は将来の情動を予測するのに役立ち、したがって、自分自身の行為の結果を予見するのに役立つとみなされる。

  意志力はこのような二つのシステムの相互作用によってもたらされる。意志力は、熟慮的なシステムが、衝動的なメカニズムを制御することで発揮される。しかし、熟慮的なシステムによるこの制御は絶対的なものではなく、衝動的システムの活発な活動が、熟慮的システムを圧倒したり、「ハイジャック」したりすることもある。


【講読に際して議論された点】

  • 「衝動的システムが熟慮的システムを圧倒する」場合と、「衝動的システムが熟慮的システムをハイジャックする」場合の明確な違いとは何か、ということが議論された。たとえば、「Aを殺さない」という熟慮システムが「Aを殺す」という衝動的システムに圧倒される場合とは、「Aを殺さない」と熟慮的に決定しても、それによって「Aを殺す」という衝動システムを制御することができず、衝動システムの決定が最終的な決定となるような場合であり、他方、ハイジャックされる場合とは、熟慮的システムが衝動的システムに拘束されずに自由に熟慮して「Aを殺さない」という決定を行うのではなく、衝動的システムに誘導されて「Aを殺す」ことの正当化を行わせられ、それによって「Aを殺す」ことが最終的に決定されるような場合である。前者は衝動的殺人であり、後者は衝動に動機付けられた計画的殺人であるといえるだろう。

  • 二次的誘発因子は、「知覚像」や「想起された心像」によって引き起こされるという記述が本文中にあったが、この場合「知覚像」とはいったいどのようなものか、またこの両者に違いはあるのかどうかという問題が議論された。

  • 報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)

    PDF版をダウンロード (PDF, 80.3KB)

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