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【UTCP Juventus】内藤まりこ

2008.08.29 内藤まりこ, UTCP Juventus

UTCP若手研究者研究プロフィール紹介の第13回は、RA研究員の内藤まりこが担当します。

これまで日本の中世文学、とりわけ和歌・歌論を中心に研究してきました。以下に、これまでの研究のあらましと今後の展望をご紹介いたします。

1. 和歌と時間
詩的言語が世界を分節化する言葉の実験であるならば、和歌もまたそのような言語の営みとしてあるはずです。これまで、12世紀後半から13世紀後半にかけての和歌や歌論書においてどのような時間意識が立ち上げられているかを考えてきました。中世の始まりといわれる12世紀後半から13世紀後半の時代に注目するのは、この時期にそれ以前にはみられない時間意識が成立したと考えるからです。『万葉集』がつくられた古代と現在との間が、ある種の断絶として感じ取られるようになる中世において、過去がそれまでとは異なる意味をもって立ち現れてきたとして、歌論ではそうした過去を、現在へと繋がる時間としてではなく、現在から切断されたアナクロニックな時間の様態として把持していたことを考察しました。本歌取りという和歌の技法が確立するのもちょうどこの時期ですが、本歌取りは、歌の中に歌の一部でありつつ、そうではない本歌を構造化することで、歌が詠まれる現在の時間から切り離された過去の時間を仮構する装置として論じられます。今後は、和歌や歌論にみられるこうした虚構の時間というべき過去に対する時間意識を、同時期にさかんに創作された寺社の来歴を語る寺社縁起や、過去の人物に仮託した偽書群の構造の中にも見通せるものとし、中世的な問題として論じることを考えています。

「中世歌論における時間—未来の記憶のために」『物語研究』第六号 2004年10月
「記憶にないほど古い歌—本歌取りの問題機制」『言語態』第七号 2007年7月
“The Journey of an Utamakura through the Past: “Shiga no Mountains Pass: and “Shiga Flower Garden” Review of Japanese Society and Culture, vol.19, May, 2008
“Potentiality of Literary Experience: the Role of the Past in Medieval Poetic Theories” Proceedings of the Association for Japanese Literary Studies, vol.8, Autumn 2008

2. 作庭と和歌
中世は和歌だけではなく、連歌や今様、猿楽などのさまざまな芸能がさかんであった時代ですが、本研究では和歌と他の文化現象との繋がり、とりわけ作庭との関わりに注目してきました。中世歌論において、和歌の創作には、〈詠む〉と〈作る〉という二つの態度があるとされますが、こうした和歌の技法にほかならぬ庭作りの技術が影響を与えたことを指摘し、両者の関わりを考察しました。また、和歌と庭との関わりを、中世の社会構造の問題として捉えることで、和歌の基底を構成した文化的な想像力についても検討しています。具体的には、口承の現場で作られたために、現在資料としてはほとんど残されていない言葉の掛け合いとしてあった短連歌という歌の形を、和歌の基底においてみることで、連歌へと発展し、猿楽などの芸能との結びつく短連歌と和歌との関わりを通して、中世の文化構造を論じることができるのではないかと考えています。

「和歌と作庭―石をめぐる叙景歌について」『言語情報科学』第二号 2004年3月
「姿の問題圏―和歌と作庭との連関をよみとく」『言語態』第五号 2004年10月

3. 中世の信仰の形
私が所属する「世俗化・国家・宗教」プログラムにおける問題意識に連なるテーマとして、中世における信仰の問題を考えたいと思っています。近代に入って「宗教」の概念が成立し、「仏教」や「神道」などの各宗教が体系づけられたことを踏まえ、こうした近代的な宗教概念から捉えることができないが故に、見えなくなっている中世の信仰の形を、とりわけ文学との関わりから捉えることを考えています。というのも、時に教典を逸脱し、既存の物語やさまざまな信仰を寄り合わせていく人々の信仰の営みは、文学的な想像力の側から捉えるべき問題としてあるからです。また、近代とは異なる中世的世界を考えるとき、信仰や文学の問題は、「日本」というナショナルな枠組みを超えて考えられるべきであり、東アジア海域を中心として、影響関係という形というよりはむしろ、同時代的に各地域で進行した信仰や文学の様態を把握したいと考えています。

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