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時の彩り(つれづれ、草) 035

2008.06.09 小林康夫

☆ ドミニック・レステルさん再登場(6月4日)

先週の水曜、わたしのUTCPのゼミでPDの大竹さんのカール・シュミットとヴァルター・ベンヤミンについての刺激的な発表を受けての討論の余韻をまだ残したままで、101号館研修室に駆けつけると、レステルさんもう来ていらっしゃる。

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確か今年の2月にも来ていただいて話をしていただいたのだが、今回も京都で大きな学会があってその帰り、離日前夜なのに、UTCPにぜひ来たいと向こうからの申し出。で、7月にベルリンで話すという20頁のペーパーを軸にまた1時間ほどレクチャーをしてくれた。

基本は、動物行動学におけるかれの「二重構成主義」の立場について。しかしかれの立場はなかなか過激で、たとえばヨーロッパの動物園にいる虎なら虎が全部、相互にヴィデオカメラで対話しあうなどという驚くべき考えをちらと言ったりするからおもしろい。

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当然、みなさんからのいろいろな質問があり、討議があり、こちらも学ぶことが多い。レステルさんは「ここにはほかの場所にはない刺激的な対話がある、世界でここだけ」なんて(お世辞でしょうけど)言ってくれて、わたしとしては嬉しいですね。かれの友人である一橋大学の鵜飼哲さんも忙しいなか駆けつけてくれて、その後みんなで行った下北沢の居酒屋でも議論は続いたのでした。

「カオス的理性」そして「人間科学の終焉」という主題でいっしょに共同研究の資金を申請しようと盛り上がったが、この次はわたしがパリに行って会う番かな。


☆ 狂乱の週(バロック的)

しかし5月31日からの週はわたしにとっては、またしても狂気の週で、31日に大阪の国立国際美術館で「液晶絵画」についてのシンポジウムに出席。そこでは、アーティストのやなぎみわさんとお知り合いになれたのは楽しかったですね。後で写真集を送っていただいたが、バロック的な感覚が際立っている作品だった。アレゴリーの復権!

さすが日曜は休めたが、次の月曜は理事をしている三宅一生文化財団の理事会。一生さんが企画した「21_21 DESIGN SIGHT」での展覧会「21世紀人」にもまた、ある意味ではバロック的とも言うべき「洞窟」が出現していたのが興味深かった(7月6日(日)まで)。

さらに火曜は、なんと早稲田の法学部の法学大会という大イベントで講演。法を学ぼうとする人たちに「法とは何か?」を法律を超えて問いかけるという趣旨。そして、そのまま六本木のグランド・ハイアットで開かれたシャンパーニュ委員会主催の「第1回 La joie de vivire」賞の授賞式へ。わたしは選考委員のひとりだったので、受賞者の池坊由紀さんのお隣でシャンパーニュを飲むという「喜び」。池坊さんの生け花のパフォーマンスもしっかり見せていただいた。

で、4日はすでに述べたカール・シュミットから動物行動学へのカオス的遍歴。続いて木曜の朝には、東大・浅野キャンパスの横山茂之先生(理学部)を訪ねてたんぱく質についての話をうかがう。これは「UP」の連載のため。編集者と会った後は、今度は、新しく設立された「文化・芸術による福武地域振興財団」の助成選考の委員会。

続いて金曜も昼から日本証券奨学財団の奨学生選考委員会。なんだか選考関係が続いた週だったが、それも早めに退出して、後期課程の授業へ。その授業のテーマがこのところはバロックで、メキシコのウルトラ・バロックについてのなかなかしっかりした発表があって、刺激を受けて考えることがたくさんあった。

そしてこの週の最後がUTCPのイスラーム理解講座第5回というわけ。飯塚さんの講義を聴いていて、まったく個人的にだが、イスラームへの接近の核を「公正・公平」に見い出すことができるのでは、と思えたのが収穫だった。わたし自身のための扉みたいなもの。  

なにをやっているんだろうと思わないわけでもないが、わたしにとっては、これらのすべてが知的におもしろい。レステルさんのトークにわたしは勝手に「Entre la raison et la vie」(理性と生命のあいだ)というタイトルをつけたのだったが、それは実は、わたし自身の現在の問題意識のあらわれ。つまりそれこそ「バロック」というわけである。カオス的理性とはバロック的な理性でもある、というのがこの週の結論かな。

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