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立花幸司 学会発表報告「The Possibility of Civic Virtue in present-day Japan: Consensus Conference, Jury System and Moral Education」(第二回応用倫理国際会議)

2007.12.03 立花幸司

 応用倫理国際会議(第二回)が11月22~25日の4日間にわたり北海道大学で開催され,私(立花)も発表者の一人として,参加してきました.
 ここではその報告を,(1)学会全体,(2)立花の発表,(3)その後,の三点に纏めて報告します.

(1)学会全体について
 ProceedingsのForewordによれば,発表の数は一般・招待合わせて38件.発表者の出身は,スウェーデン,英国,スペイン,ナイジェリア,南アフリカ,アラブ首長国連邦,中国,香港,台湾,日本,オーストラリア,ニュージーランド,カナダ,アメリカ,という14ヶ国である.したがって,南アメリカを除く五大陸から発表者が集まったことになる.

 発表は,朝は9時前から始まり17時半までというスケジュールであり,一般発表者の持ち時間は40分,発表テーマも多岐にわたっていた.Programを見ると,メタ倫理,ビジネス,優生学,医療,科学技術(私はここに含まれる),脳科学,教育,文化,宗教,戦争…などがずらっと並んでいる.倫理的なあらゆる問題が俎上にのぼっているという感じである.

 私も,関心の赴くままに発表の「ハシゴ」をしながら過ごしたが(おかげで24日は日本ハムの優勝パレードという喧噪から逃げ出すことができた),どの会場でも倫理の「現場」に立脚した質問・議論が多かったことが印象的であった.「あなたの発表では~~ということですが,私たちの国では……だと考えますし,実際それに沿った政策が行われ,△△という成果を上げています」という類の発言を何度となく聞いたし,「あなたの~~という考え方では,今生じている……という問題にどう対応するのですか?」といった実践的な批判も度々耳にした.それに対する応答もまた,実際の研究・活動の中から得られた成果・データの提示など具体的なものが多かった.

 あくまでも私個人の印象であるが,今回の国際会議では,現場に立脚しながら問題を解決していこう,そのための理論構築をしよう,という空気が会場全体に共有されていたように思う.そこには,自分たちが抱えている問題を「実際に」解決しようとする秘めた熱意を感じ取ることができたし,そのために積み重ねてきたひたむきな努力の影を見て取ることができた.

 そんな熱気に包まれた会場の中で,気がつけば私は「我々は,単に研究のためにではなく,善く生きるためにこそ倫理学に携わっているのだ」というアリストテレスの言葉を思い出していた(ただし,やや意訳).


                閑話休題...


(2)立花の発表について
 私の発表は二日目の23日の14時過ぎから行われた.一般の発表としては比較的多くの方に出席していただいたようである.題目は「The Possibility of Civic Virtue in present-day Japan: Consensus Conference, Jury System and Moral Education」.日本語に訳せば「現代日本における市民の徳の可能性――コンセンサス会議・裁判員制度・道徳教育を手がかりに――」ということになる.司会はWashington大学のAndrew Light氏.

 発表の概要は,技術倫理の文脈で論じられる「市民の徳」という概念を拡張し,より広い文脈に置き直そうとしたものである.そのために,私は,現代日本の三つの動向として,(1)コンセンサス会議(2)裁判員制度(3)道徳教育を取り上げ,それぞれの歴史的な成立過程と社会的・法的位置づけを様々な資料を基に纏め上げ,それらの含意や問題点等を分析した.そして,「市民の徳」と「善き生」の関係を巡るアリストテレス政治学における議論を再考し,現代日本において「(拡張された)市民の徳」概念の萌芽と展望が,そしてまた現状の問題点が見いだせることを示した.これにより,公的なものと道徳的なものに関係する様々な分野の間に,一つの大きな道筋・方向性を示すこと,それが今回の論文の目的であった.(内容については要旨をアップしているので詳しくは「こちら」からダウンロードしてご覧になっていただくこととしたい.)

 質問は,具体的で現実的なものから(私の発表が若干理論寄りだったせいか)理論的なものまで様々だったが,私のプレゼン発表が少し長引いたせいで,Light氏が指名した数名の方々の質問にのみ答えるだけとなった.したがって,議論の多くは発表後や,翌日のBanquetにてなされることとなった.(発表後その会場に一時間近く残って数人の研究者と議論をした.)


(3)その後について
 既に述べたように,発表後や翌日のBanquetにて日本人や(国籍はわからないが)英語を話す人たちから色々と指摘やコメントをうけたり,また,幾つかの事象についてコメントを求められたりした.

 とりわけ,北海道大学の石原孝二氏からは,発表中にも質問をいただき,翌日のBanquetでもその続きを議論させていただいたが,実際に北海道でコンセンサス会議を実施した方からの批判として,学ぶべき点が大変多かった.

 北海道では,2006-07年にかけて道庁主催で,遺伝子組み換え作物(GMO)に関するコンセンサス会議が催されたばかりである.そして,北海道大学,とりわけ石原氏も中心的役割を担っている北海道大学科学技術コミュニケータ養成ユニット(CoSTEP)が,その運営に携わっていたのである(私自身の発表でもこのGMOコンセンサス会議については言及していた).そうした石原氏からコメントを頂けたり,また様々な資料の情報を提供していただけたりしたことは大変有益であった.(GMOコンセンサス会議に携わった他の北大の人々からも苦労話が聞けたりしたのは,ほとんど表に出てこない話であるだけに,それもまた有益であった.)

 また,道徳教育のあり方を巡っては,様々な観点から関心をもっている方が多いことに(部分的には私の不勉強のせいであるのだが)驚かされた.そうした多くの人たちと議論ができ,お互いの研究状況や情報の交換などができた点も,会議に出席した大きな収穫の一つであった.そうした方々の指摘はどれもみな有益なものであり,私が考えもしなかった分野(その多くは,ビジネスや医療など,極めて応用的で実践的な倫理的次元であった)が重要な仕方で私の問題意識と繋がっていたことが発見されたりなど,大変勉強になるものだった.

 とりわけ,上野哲氏(広島大学),金光秀和氏(金沢工業大学),須長一幸氏(新潟大学)のお三方とは長い時間議論をさせていただいた.私が今回発表した論文には,私の考えていなかった含意があること,また,現場での道徳教育や技術者倫理教育に携わっている方々からの意見として,他にも考慮すべき点があることなどを指摘していただいた.

 東京に戻ってからもメールのやりとりにて意見交換をしたり,論文や著作を送っていただいたり,こちらからも資料を送ったりなど,交流は続いている.

 今回の国際会議は,これからの私のこの関心事(倫理の観点から考える「市民教育と市民の社会・政治参加」)での研究活動のあり方にとって,大変有益な,示唆に富むものとなった.

 最後に,私のこの問題関心をご理解下さり快く支援して下さった,小林康夫代表をはじめとするUTCPの関係者の方々にお礼を申し上げたい.


追記:
何人かの人から「あの写真は北大ですか?」と訊かれたので付記しておきます.サムネイルの写真は北大ではなく,私が発表した11月23日の札幌駅です.前日の22日,私が部屋でパワーポイントの修正をしていると,夜で雪が降り始めました.深夜遅くまで粉雪が舞っていましたが(通りで女の子たちが歓声を上げていたのが印象的でした),翌朝は雲一つない晴天になりました.私は,北大まで歩いていこうと昨夜地図を見ながら決めていたので,泊まっていたすすきの駅近くのホテルをすこし早めにでました.すると,町中が真っ白になっていました.それはまるで粉雪たちが昨日までのことなんかはじめからなかったことにしようとみんなで申し合わせていたかのような白さでした.お互いに声を掛けながら夜中じゅうかけて目につくあらゆるものをせっせと覆い隠したに違いないと思いました.彼ら(と粉雪たちのことを呼ぶのが正しいのかは私にはわからないのだけど)の企みはいくらか成功していたようです.私は,自分が数時間後に発表するという実感がうまくもてないまま,全てがリセットされた目抜き通りを淡々とまっすぐに進んでいきいました.そして,ぱっと視界が開けたときに見上げたのがこの札幌駅だったのです.雪の白さに瞞されて実感がもてないでいたのですが,この空の蒼さを見上げた瞬間に,自分がこれから発表するのだということを,心拍数の一定の上昇と共に感じることができました(あくまで「一定」の上昇です).発表することに慣れるとこうした気持ちは薄れてしまうのかなぁ,と思いながら撮ったのがこの写真です.
(この追記は報告とは無関係の内容なので,場合によっては後日削除するかもしれません.)

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