吉増さんは、おそらく左手でピンチハンガーを持って突き出し、右手でカメラを持ってその後ろに定位し、さらにポケットには詩を朗読するパウル・ツェランの声のテープレコーダーをいれて、――われわれにはその姿は見えないのだが――しかしなんとも奇妙な、ほとんど「道化」のような姿となって、誰もいない、水もない、コンクリートもひび割れ、そのひび割れから雑草が生えてきて立ち枯れ、もともとの青のペンキもほとんど剥げてしまった無残なプールの底を、よろめくように歩く。